偶然テーブル

2009年7月23日 読書
「高校のとき塾行ってた?」
と、唐突に彼は切り出した。



昼休みは過ぎてしまったが、テスト期間中の学食はまだまだ人でごったがえしていた。ある者はプリントとにらめっこをし、ある者は話に興じていた。食事を取っている者もいた。誰かと誰かの姿かたちがそっくり入れ替わったとしても、誰も気付かないような風景だった。

「うん、****ってとこ」

そのテーブルに着いたのは、ゼミの先生に渡すメッセージ・カードを書くためだった。
食堂の二階の端のスペースには四角いテーブルがぽつぽつと置いてあり、晴れていればガラス越しに心地よい日光が差し込む。そんなテーブルの一つだった。
正面と左にはゼミ仲間が座っていて、それぞれ厚い本を読んでいた。右隣に彼がいて、統計の教科書を読んでいた。どうやら三人は同じクラスのようだった。

「何の授業取ってた?」
「うーん、英語と国語かな」

ここまで言ったとき、彼をどこかで見たことがあるような気がした。というより、最初にこのテーブルに着いたときから、この男と会うのは今日が初めてではないな、という予感がしていた。声や顔の特徴が過去のイメージとリンクしたというよりは、発散される雰囲気に覚えがあるような気がしたのだ。

「先生誰だった?」
「英語はY先生で国語はI先生かな。たしか新宿だった」
「本当に??俺も国語の授業取ってたよ!」

いやあ、世界とは本当に狭い。一年近く同じ授業を受けていると、お互い会話したことはなくてもなんとなく分かってしまうものなのだ。それにしても、受験生の頃は毎週見かけても親しいどころか声を掛けるでもなかったのに、大学の、それも二年生になってから、たまたまゼミの用事で座ったテーブルで再会するとは、なんとも奇妙な運命の采配だった。それは、紛れもなく試験日程や彼らの都合から決まったもののはずだったが、なにか別の要素が含まれているような気がした。食堂の二階のテーブルは、不思議な引力を持っているのだ。



それから、我々は共通の知り合いの話をしばらくした。ほとんどが、彼の高校の同期の話だった。
帰り道になって、セブンスターばっかり吸っていた先生のことを思い出した。シニカルな先生だった。
大学に入ったら読むはずだったミシェル・フーコーやジョルジュ・バタイユはまだ手付かずだった。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索